ラジオ編成マンにとってのオリンピックとは


北京五輪である。


TBSラジオではレギュラー番組を休止して星野ジャパンの野球を中心に実況中継を放送している。
編成のお仕事はこうしたイレギュラーな番組送出で事故が起きないよう、事前にシミュレーションしてこの間のルールを定めておくことであって、実際に開幕した暁には仕事のほとんどが終わっているのである。
後はルールがちゃんと運用されているか確認する見回りと、想定外の事態が起きてしまった時のための番兵だ。


番兵だから競技中にデータを集めたり原稿を書いたり編集したりはしない。スタジオにもあんまり長くは行かない。平時に警察や軍隊が市中をうろうろしている国はロクなもんじゃない。JAFだって呼ばれなければ出動しない。まあそんな感じの仕事なのである。


そうは言っても土曜日の夕方、オリンピック本部に顔を出す。


「オリンピック本部」という臨時のセクションがTBSラジオの中に置かれている。
以前書いた「選挙本部」と同じ大きなスタジオが「オリンピック本部」となっている。公開録音にも使えるスタジオであって、バドミントンくらいなら優にできそうなサイズである。天井も高い。
スタジオの中には6〜7台のテレビモニターが置かれ、壁一面にこれからの競技予定とこれまでの結果が書かれた模造紙が貼られている。


なぜこんな施設が必要なのかといえば、北京五輪で行われる様々な競技の実況を受けるためだ。オリンピックのような国際的なスポーツイベントでは、NHKと在京民放ラジオ各局からなるチームで手分けをして実況をつける。例えば「野球予選・日本対韓国」はニッポン放送の松本アナが実況し、それを中継する全てのラジオ局がそれを受ける。だから日本対韓国戦を中継したラジオは、NHKも民放も地方局も含めて全て松本アナの声が流れているのである。


で、この本部ではラジオ実況の他にテレビモニターも置いてあって、テレビ用の実況も録音している。テレビ用の回線は4系統。テレビ音声には当然、映像もついているのであって、つまりオリンピック本部にくれば国際映像が見放題なのだった。放送の仕事をしていて最も「やってて良かった〜」と役得を感じる瞬間だ。どれくらい幸せかというと、小売店に卸す前の果物をオイシイ方からつまみ食いし放題の仲卸みたいな立場なのだ。そんなのあるのか?


そこには、放送されていない競技も送られてくる。日本の絡まないサッカーの試合とか、日本人の出ない陸上競技とか。日本のテレビは今、日本人が出ない試合はほとんど中継しないでリプレイや冗長なスタジオトークでつなぐけど、国際映像は「今やってる競技」を次々と流す。おまけに試合と試合の合間の観客席も映る。国際映像カメラマンもそんな時には気を抜いて自分の好みの美女をアップにして遊んでいる。盛り上がるレスリング会場をしばらく見ていると、某テレビ局のリポーターとして北京に派遣されているビーチバレーの浅尾美和がアップで抜かれていた。カメラマンの趣味だったらしい。


しばらく駄話などをするが、夜の部が始まり本部詰めのスタッフはダイジェストやハイライト番組を作るために仕事を始めた。
国際映像でレスリングの伊調千春吉田沙保里の決勝を堪能して本部から退散。トラブルが起きない限りは用ナシの店番に戻るのであった。