ラジオは「人に優しいメディア」でしかないのか?

 ライブドアVSフジテレビの問題に、ソフトバンクのグループ会社「ソフトバンク・インベストメント」が新たに登場した。北尾CEOはこれまたテレビ的にはおいしい感じのキャラで、明日は「北尾WHO」というネタで1日持ちきりとなるだろうが、株貸出の意味などは当てになる専門家の意見を待つことにしよう。

 もう一つ、今回の問題では「ラジオを擁護する立場の人々」の声もだんだん伝わってきた。要旨を総合すると「ラジオは人に優しいメディア」で「病気の人や地震の被災者など『弱者』に向けて放送」するもので、人の心に土足で踏み込むような堀江社長にはラジオ局経営者としての資格がない、というロジックである。しかし、ラジオ局で働いている人間がこの論理に安住していていいのか?「人に優しい」だけのメディアに未来はあるのか?「弱者向けの放送」をしていれば、誰かが生き延びさせてくれるのか?
 「オールナイトニッポン」全盛期を支えた人たち(ビートたけしを筆頭に、タモリとんねるず笑福亭鶴光などなど)は「人に優しい」なんてことはこれっぽっちも考えていなかったと思うぞ。
 僕が考えるラジオ番組のイメージは「テレビにはできないぎりぎりの寸止め」だ。テレビは映像がないものは放送できず、映像の派手さによって事の本質は損なわれる(たとえば被災地では必ず崩れた建物だけが映され、無事だったものは映像化されない)。テレビは俯瞰的・網羅的にものを見るのには実は不向きなのだ。一方ラジオは、テレビのような細切れにせず、長いやりとりの中から事の本質を浮き上がらせることができる。電話程度の設備で議論に参加でき、しかも影響力が弱いせいもあってテレビでは尻込みするような意見も発信可能だ。ラジオは弱者のためだけにあるメディアじゃない。弱者にも強者にも普通の人に対しても、何事か現状に納得していない人たちに、考える材料を提供する入り口だ。
 ラジオで働く人間は「人に優しい」とか「パーソナルで暖かいコミュニケーション」とか、甘ったるい価値観に逃げ込むな!「素晴らしい天然記念物」は「絶滅危惧種」と同義だ。弱者を気遣って見せるパーソナリティが、実はそう言ってみせることが営業上プラスになることを計算していないとでも思っているのか?そういう輩を見たことがないのか?

 ところで、ラジオはテレビに比べて「影響力が弱い」と書いたが東京圏(1都3県)の人口は3300万人。今、いちばん聴かれているラジオ番組は聴取率3%超くらいだからざっと100万人が聴いていることになる。ラジオは個人聴取率なので、テレビが発表している世帯視聴率とは実は単純比較できない。また、100万部発行の雑誌があってもある特定の記事を全員が読んだとは言えないが、ラジオの場合は3%を記録した時間帯には、100万人が(意識的か無意識かは措くとして)その時の放送を耳にしていたと言っていいはずだ。ちなみに東京のラジオ放送は群馬や栃木、さらにはエリア外の山梨や長野でも聞こえる。今回の騒動を機に「ラジオは広告費でもインターネットに抜かれ、衰退一途のダメなメディア」と言いたげな論評も目にするがhttp://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20050321ig15.htm(そしてあげくは「ラジオは人の心に深く分け入る」だ。失われて今はもうない故郷を愛でるようなトーンでラジオを語りやがる。ヤメロ!)、もっと具体的な数字をあげてラジオ会社はその価値をアピールすべきだ。せっかくラジオに注目が集まっているんだから、経営者の人、早くやってよ。
 

ライブドアが経営したら出演しません

 という出演者が続出している、とテレビニュースが伝えている。でも、どこもちゃんと言わないけど、これはニッポン放送が「ライブドアが経営すると企業価値が損なわれる」証拠として東京高裁に提出していたもので、いわば裁判戦術の一環だ。http://www.asahi.com/culture/update/0324/001.html
 たとえば懇意にしているプロデューサーやディレクター、あるいは昔からつきあいのある管理職に「一筆書いてくださいよ」と頼まれればそうするタレントがいても不思議ではない。逆に、堀江社長ニッポン放送の経営者になったところで、ディレクターとは個人的つながりがありますのでと人間関係を盾にとればタレントさんは出演辞退を撤回することも可能で、誰も困らない。これはクサして言っているのではなくて、ラジオとはそういうタイプの仕事なのである。
 出演者に突然辞められて困るのは経営陣ではなく直接担当しているプロデューサーやディレクターだし、引き留め工作だって結局は現場がやるのだ。個別の番組制作に関して、経営者がいちいち介入するなんてことはないのである。「数ある業種の中でも、テレビ局やラジオ局ほど経営陣を総とっかえして問題なくオペレーションが継続できる業種は無いかも知れません」という磯崎哲也氏の見方ITベンチャーがテレビ局を経営するということ | isologueの方が正鵠を得ていると思う。精神の自由は誰かがくれるものじゃなくて認めさせるものだ。詰まるところ最大の問題は「待遇」なのである。
 あと、「堀江社長が経営者になったら降りる、というスポンサーが出てきた」とニッポン放送の元アナウンサー氏があちこちで言っていたが、これはライブドア参入を口実・方便にした提供終了通告である可能性もある(つまりもともとチャンスがあれば降りたいと思っていたわけだ)。僕の知る限り、アナウンサー出身者は営業やマネジメントに疎い人が多いのだが、この方は違うのかな?