狂牛病問題を放置していていいのか?

 かねがねBSE問題を「牛丼食えるか食えないか」という話にすり替える論調に脳みそが溶けそうな思いをしてきたのだが、
29日(火)の各紙朝刊が食品安全委員会の「方針転換」を伝えている。
asahi.comの見出しは「BSE全頭検査、20ヶ月以下を除外 安全委が緩和容認」。
http://www.asahi.com/special/bse/TKY200503280224.html
 他紙の見出しも似たり寄ったりだ。

 しかし、28日に公表された、食品安全委員会による「中間とりまとめ」は、新聞記事から受ける印象とだいぶ異なる。
http://www.fsc.go.jp/sonota/chukan_torimatome_bse160913.pdf

 20ページから先「結論」からまとめると、
●月例20ヶ月以下の牛からBSE感染牛は見つかっておらず、
 現在の検査水準を前提とするならば、20ヶ月以下の牛を検査対象から除外しても
 vCJD(変異型クロイツフェルトヤコブ病)に感染するリスクが今より増加するとは
 いえない。
 ・・・ としながらも、
●検査技術を向上させ、(現在20ヶ月までしか検出できない)検出限界の改善や、
 さらに血液等を用いた生前検査法の開発も含めて開発を進めるべきだ、と書いてある。

 つまり「20ヶ月」という線引きはBSE感染牛が「見つかっていない」だけであって、
「BSEに感染していない」訳ではない
 特定危険部位を適切な方法で除去し続けるならば、リスクは低減するがゼロではない。
リスクを科学的見地から評価する「食品安全委員会」としては当たり前だ。

 でも、「安全委が緩和容認」というフレーズとはトーンがかなり違うでしょ。

 とあるラジオ番組を聞いていたら、経済系のジャーナリストが「安全委はろくに会合も開かず怠慢」と見当はずれの批判を展開していた。
 これは誰の意見を代弁しているかよくわかる。産業界とアメリカにいい顔をしたい政治家だ。
 彼らは安全委を頻繁に開かせて、何とかお墨付きを得たいと考えているが、安全委はBSEリスクの評価に関して新しい要素(20ヶ月以下のBSE牛が見つかるとか、画期的な検査法が開発されるとか)が出てきた訳じゃないから怠慢とはいえないはずだ。

 BSE問題を追い続けていて、今回の委員会も傍聴したジャーナリストの内田誠氏によると、今回の答申とりまとめを作るに当たっても委員会はかなり紛糾し、「もっと明確に危険性を指摘すべきだ」という意見が実は大勢を占めたという。
 今回の結論は「国産牛肉のリスク」に関してのものなので、各紙記事にあるような「米国産牛肉の輸入再開」に直結するものでもない。米国産牛肉の安全評価は今後改めて検討されるが、月例判別の方法や特定危険部位の除去法に関して、委員たちは厳しいチェックを入れるべく手ぐすね引いて待っているそうだ。

 ところで、「特定危険部位を除去すればOK」なのかどうか、前述の『もう牛を食べても安全か』ISBN:4166604163がある(P218以降)。その危険部位を特定するためにイギリスで行われた動物実験について調べたものだ。
 人為的に感染させた牛の回腸(=特定危険部位)には生後18ヶ月まで病原体が確認されたのに、22〜26ヶ月までいったん姿を消し、回腸以外の部分からも検出されなくなる。そして32ヶ月の段階で脳と脊髄に大量の病原体が再び検出されるというのだ。
 22〜26ヶ月の間、病原体はどこに行ってしまったのか?著者の福岡伸一氏は回腸に集まった病原体はいったん全身に散開して希釈されるため、検出限界を下回ってしまうため姿を消したように見える、と解釈している。
 さっきも書いたが「検出されない」ことと「リスクがない」ことはイコールではない。特定危険部位ではない筋肉部分にも、散開中の病原体がばんばん通過している可能性が高いのだ。牛丼に目を奪われている場合か?

 さらに勝谷誠彦氏が日記で紹介している『牛肉と政治 不安の構図』(中村靖彦・文春新書→ISBN:4166604376・私はまだ未読です)によると、「ウチの牛は安全だ」と主張しているアメリカではクロイツフェルト・ヤコブ病の患者がすでにたくさん出ていて、それなのに追跡調査が何者かの妨害に遭って行われていないという。
 そういえば、どこかの競馬場の同じレストランで食事した人から、なぜかヤコブ病患者が大勢発生したというニュースを読んだ記憶がある。そしてそのニュースの続報を読んだ覚えがない。
 そんな国から輸入再開とか言ってていいのかよ。正しい情報が出てこないのならリスク評価のしようがないではないか。産地と加工場を1軒1軒日本政府でも民間業者でも、チェックし続けるとでも言うのか?

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asahi.comの転載記事》http://www.asyura2.com/0403/gm10/msg/182.html
週刊文春の転載記事》http://www.asyura2.com/0403/gm10/msg/136.html
《米誌コラムの翻訳など》
http://hiddennews.cocolog-nifty.com/gloomynews/cat246361/index.html

 さらに、日本に危ない牛肉を買わせるための新たな作戦も立てられている。
 動物衛生の国際機関OIE(国際獣疫事務局)が、牛肉の貿易条件を緩和する改定原案をまとめ、5月に開く総会で採択しようとしているのだ。
 その条件とは、一言でいうと、

「骨つきでなければどの肉を輸出入してもOK」

なんだそうだ。これまでの努力は一切水の泡。

共同通信の転載記事》
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050324-00000153-kyodo-bus_all
《詳しい記事》http://www.juno.dti.ne.jp/~tkitaba/bse/news/05032902.htm

 OIEのお墨付きをもとに、アメリカなど牛肉の輸出国は「日本は不当に米国産牛肉の受け入れを拒否している」と言いがかりをつけ、WTOへの提訴もちらつかせて輸入を迫るのは明らかだ。
 有効な反論を準備すべく、それこそ内閣府食品安全委員会プリオン部会を招集すべきではないのか(これは議論すべき新しい局面と言っていい)。わざと招集せずにタイムアップを狙っているのではないだろうな。