日本陸軍の失敗に学ぶ

 「文藝春秋」6月号の特集「大研究・昭和の陸軍〜なぜ国家を破滅させたのか」を読む。太平洋戦争での旧日本軍の失敗はいつ読んでも示唆に富む。


 保守系の政治家が「戦前の日本は良かった」と言い募りたいなら、その帰結としてなぜ戦争に負けたのかもちゃんと説明してほしいものだ。
 現代にもつながる、日本陸軍の失敗は・・・


①指揮官の意志が全軍に周知徹底されない
 輸送船にスシ詰めにされて、どこに行くのかも知らされず、着いたら「さあ、戦え」というのでは士気が上がるわけがない。


②そもそも指揮官にポリシーがない
 昭和の陸軍は持久戦をやるのか、短期決戦でいくのかという戦争の基本的なポリシーを確立せずに開戦へなだれこんだ。そのため戦争の末期にいたっても、玉砕覚悟の突撃と、硫黄島の栗林中将のように耐えて相手の出血を強要する戦術が混在した。


③自分に都合のいい情報しか見ないし聞かない
 英米のホントの実力を知る留学経験者を登用しなかった。中枢を占めたのはドイツに留学した軍人ばかり。結果、ドイツの戦力だけを過大評価することに。
 作戦部の参謀たちは自分の担当以外は何も知らない。自分たちが立案した作戦について都合のよい情報だけに目を向けて、都合の悪い情報は無視した。自分たちの願望だけで戦争指導を行ってしまった。
 例えば、対ソ連戦は22個師団でいける、という作戦を立てるが、根拠はでたらめ。当時のソ連軍師団は寄せ集めだから、という理由で、日本の一個師団の戦力を100とした場合にソ連は75、と勝手に割り引いて計算する。実際にはソ連の戦車と対戦車火器は日本の3.2倍。組織の論理を優先する数合わせで、合理的な根拠は何もない。
 アメリカとの開戦前に海軍が収集したデータでも、GDPは日本の12.7倍、生産力は艦艇が4.5倍、飛行機が6倍、自動車が450倍、アルミ6倍、鋼鉄が10倍。保有量では鉄が20倍、石油が100倍、石炭10倍、電力量6倍と圧倒的な差があった。どう考えても不利なのに、「日露戦争の時も国力には10倍の差があった。やってみなければわからない。いま始めないと、もっと国力に差がついてしまう」という理屈で開戦に突き進んだ。また、「日本人は精神力が優れているから」などと、根拠のない条件を加味して彼我の差を勝手に縮めた。


④失敗した人たちの責任が問われない
 ノモンハン事件を主導した関東軍の参謀(服部卓四郎と辻政信)は、ソ連に散々な敗北を喫しながら責任を問われずに中央へ戻り、ガダルカナル作戦で再び戦死・餓死者25000人という大失敗をする。日本は失敗した軍人を更迭しなかった。アメリカは太平洋戦争の期間中、26人の指揮官を更迭している。
 また本来、司令官のスタッフにすぎない参謀の独断専横が可能な制度になっていた。しかも参謀はスタッフなので責任はとらない。「無駄な公共事業で財政を破綻させた官僚と一緒」と座談の出席者である半藤一利さんは指摘している。


 身近によく似たケースはないっすか?プロデューサーも小なりといえど組織を束ねるポジションであり、サラリーマンとしてはヒラである。拳々服膺せねば。
 失敗を失敗として認め、足元を冷静に分析しないと次の展望はない。憲法改正もいいけど、歴史教育はその直前の失敗を見直すあたりから始めてはどうか。