数字と野球

 ところで、『博士の愛した数式』のもうひとつのモチーフが実は野球だった。博士はホンモノの野球を一度も見たことがないのだが、記録(というのは数字で表される!)を通じた野球ファンだったのだ。野球と数学は実はたいへん仲がいい。イチロー最多安打記録やバリー・ボンズの700号ホームランのように累積の数字も意味を持つが、野球で主に多用されるのは割り算だ。勝率、打率、防御率・・・ 。これらはチームや打者、投手のポテンシャルそのものを表す。しかもそのポテンシャルには運や不運や偶然も含まれていて、それらは個別に記録されていく。例えば「先頭打者にヒットを打たれた以外はパーフェクトに抑えた投手」とか「唯一の一軍出場試合でヒットを放ち、生涯打率10割の打者」とか、珍記録のたぐいも枚挙に暇がない。野球の本場アメリカには記録マニアがたくさんいるそうで、それを商売にしている人もいる(イチローの「年間3度目の月間50安打以上」は民間のデータ会社が記録を調べたはずだ=未確認)。
 野球と数学の仲がいいのは、競技のシチュエーションがルールによって固定されているからかもしれない。投手からホームベースまでの距離はプロでも草野球でも同じだし、ストライクゾーンも(ルール上は)誰でも同じ。ストライクを3球取られたら誰でもアウトだし、打った後に走る方向は決まっていて、一塁までの距離も同じだ。サッカーの場合は、停止した状態から始まるセットプレーであっても常にシチュエーションは異なり、割り算によって計量化できるのは「PK成功率」(そんなものがあるのかどうかは知らない)くらいだろうか。しかもPKは「決めるのが当たり前」であり、その成功率が注目を集めることはない。決められない奴はPKさせて貰えないのだから、やはり数字による評価は無意味である。
 数字と野球・・・。このテーマはさらに考えてみても良さそうだ。明日は草野球。4打数1安打以上なら規定打席を満たしてリーディングヒッターに躍り出る可能性がある。個人記録が気になっちゃうのも野球というスポーツの特質かもしれない。