『博士の愛した数式』小川洋子

 ふだん小説は読まないのだが、自宅パソコンの前に座るとちょうど目に入る高さにこの本があって気になっていたのと(買ったのは僕ではなくて妻。彼女はプライベートではフィクションしか読まない)、ここしばらくのノンフィクション疲れもたまっていたので何となく手にとってみた。
 この「何となく」が案外大事で、禁煙もダイエットも始めたきっかけは「何となく」だ。ずーっと気になっていて、でもそれを横目で見ながら通り過ぎ、臨界点に近づいたところで「何となく」始める。逆に意志の力による「決意」は長くは続かないのかもしれない。
 話を戻して、『博士の愛した数式』だ。傑作という評判は随分前から聞いていて、2004年の「本屋大賞(=書店員さんが選ぶベストワン)」を受賞したことも知っていた。タイトルも素晴らしく、いわば予備知識満載で読んだのだが、期待は裏切られなかった。切なくて、爽やか。博士が書き残した数式(パソコン上での表記のしかたがわからないのでページだけ書いておきます。171ページ。「オイラーの公式」というらしい)と、博士が数字の「0」について語るくだり(196〜197ページあたり)が、数学の奥深さと人間の感情の発露の「接点」に見えた・・・ような気がする。う〜ん、こういう感情表現の方法もあるのか。
 数式を使ったことによって上手に隠されている「オイラーの公式と0の関係=博士の感情」はいずれゆっくり考えてみることにしよう。小川洋子の小説はアメリカでも翻訳されているそうだから、ハリウッドかどこかで映画化されないかしら。