東京は雪〜「地域のための情報」とは何か?

 きのうの夜中にちらちら降り出した雪が、朝起きてみるとかなり〜5、6センチ積もっている。5年ぶりの積雪量だそうでテレビニュースも「関東地方に雪」という見出しで全国ネットのトップに扱っている。
 北海道に住んでいた頃は、雪が5センチ積もっただけで交通機関がマヒするに東京の脆弱さを嘲笑したものだったが、これは若気の至りであって東京は年に1回あるかないかの積雪に「備えない」ことにしているのだ。雪を放っておくと家がつぶれたり道路が寸断されて孤立してしまう地域とは物事の優先順位が違うのである。
 今もやっているのかどうか知らないが、70年代の後半頃、NHK釧路放送局では午後7時59分から1分間のステブレ枠*1で「海難を防ぐためのメモ」というミニ番組を放送していた。モールス信号をBGMに(いいのか?)「船が転覆する原因になるので着氷はこまめに落としましょう」などと注意喚起するのである。「拿捕」(=だほ、と読む)という言葉もあっちでは日常語であって東京に出てきてこの話をするとほぼ確実にウケるので時々ネタにするのだが、水産業に従事する人が多い釧路では切実度の高い情報なのであった。そういえば「返せ北方領土」という看板はどこにでもあるものではないと知ったのも、高校生の時に釧路から札幌に引っ越した後の話だ。
 数年前、鹿児島の放送局の人と「情報番組の作り方」について話をしたことがあった。途中、どうも話がすれ違っている気がしていろいろ聞いていると、そこで扱う「情報」のイメージが違っていたのだった。鹿児島で「情報」と言えばまずは桜島の降灰情報であり、放置するとホントに致命的な台風や集中豪雨の情報なのである。それなのにこっちは「政治や経済のニュースをどうわかりやすく伝えるか」という話をしていたのだから噛み合わないのも当然だ。優先順位が違うのだから番組の作り方も備え方も全然違う。
 番組制作の方法論では速報性ときめ細かさ重視のまさに王道であって、彼らに言わせるとNHKの情報は大ざっぱすぎて「ものの数ではない」のだそうだ。東京では「有事の時のNHK」であって台風や地震、国会の証人喚問などがあるとNHKのラジオ聴取率はぐぐっと伸びるが、鹿児島では有事の際も民放なのである。これは地域の情報を地元の人に伝えるために収集するのか東京に報告するために集めるのかというスタンスの違いが現れた結果だ。こちらの方法論は「テレビや新聞など大きなメディアが落っことしたものにどう気づくか」といったことであって、まあ言ってみれば横綱に対してけたぐりのかけ方を論じていたようなものなのだった。
 地方局のラジオは経営が厳しく、「もうラジオの免許は返上してテレビだけでやろうか」と真剣に議論している局もあるらしい。リスナーの力をうまく使ってローカルに徹することが生きる道だと思うが、では東京での地域情報とは何なのか?
 ここでいう「地域情報」とは「××公園では桜の見頃を迎えました」的な花鳥風月ネタでは当然なく、もっと切実で必要不可欠なもののことである。誤解なきよう。

*1:ステーション・ブレイクの略。番組と番組の間にある1分程度のすき間のことで、民放ではCM枠として売っている。NHKにはステブレはない、という説もある。もともとは放送機器のメンテナンスの都合か何かで発生したという話を聞いたことがあるが、正確には知りません。そのうちちゃんと調べます。