廃止ローカル線の記憶


 放送批評懇談会主催の「ギャラクシー賞受賞作品を聴いて語り合う会」に出席した。「ストリーム」が優秀賞を戴いたので、ゲストスピーカーとして喋る側である。ゲストは僕の他に2人。神田神保町・岩波アネックスのセミナー室は関係者や学生さんなど50〜60人が集まっていた。2時間半の番組を35分に編集したものを聴いていただき、40分くらい番組の説明をした。


 ラジオドラマはふだんほとんど聴くことがないが、会場でじっくり聴いた東北放送『プラットホーム』に思わず涙腺が緩み、こらえるのに一苦労。ひとりで聴いていたら確実に決壊していたに違いない。
 廃線直前の「くりはら田園鉄道(通称・くりでん)」を舞台にしたファンタジーで、冒頭、くりでんが線路を走る音にブルース調のギターが乗ってきたところから背筋に電気が走ってもうイケナイのだった。音を聴きながら目に浮かぶのは父親の故郷を走っていた「富内線」の風景だ。


 富内線はクロム鉱や石炭を運ぶために大正年間に開発された路線で、海沿いを走る日高本線鵡川駅から分岐して山の方へ向かう。1両編成でディーゼル、鉱山閉鎖にともなって不採算路線となって廃止というディテールまで「くりでん」と同じで、僕の中ではラジオドラマ『プラットホーム』は富内線の物語になったのだった。


 「ファンタジーで泣ける」のは、自分の記憶の中から何かを発掘してシーンと結びつけ、リアリティを補強するからだ。年齢を重ね、記憶と経験の量が増えれば増えるほどきっと「泣くツボ」も増えていく。そっちの方が圧倒的に人生は豊かなのであって、年をとって涙腺が緩くなることはむしろ誇らしいことなのだ。


 『プラットホーム』ディレクターの鈴木俊樹さんは、東北放送エリア以外の人にも聴けるような方法を考えている模様。ぜひ実現するといいなと思います。心の中に「廃止ローカル線」が走っている人は落涙確実です。


TBCラジオドラマスペシャル『プラットホーム』
http://www.tbc-sendai.co.jp/02radio/drama2007/index.html

富内線
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AF%8C%E5%86%85%E7%B7%9A
http://www.nihonkai.com/railroad/tomiuchi/tomiuchi.html