一徹


 きのうの帰りがけ、仕事場近くの深夜スーパーで買ったアジの干物のパッケージがコレ。



 駄洒落である。
 そういえば勝谷誠彦さんのうどん屋東京麺通団」のTシャツには「腰一徹」と書いてあった。


 星一徹といえば、堀井憲一郎さんが週刊文春で連載中のコラム「ホリイのずんずん調査」で先週(=9月20日号)、“星一徹のキャラクター”がオリジナルの「巨人の星」と平成版とでは全然違う、と指摘していた。
 「星一徹は怒るとちゃぶ台をひっくり返すキャラ」と思いこんでいる人はいまだに多いが、オリジナル版では許せない嘘をついた飛雄馬を一徹がちゃぶ台越しに殴り、はずみでちゃぶ台がひっくり返った1回きりだ。*1昭和の星一徹は物に当たり散らす卑怯な男ではなかったのに、平成版では意図的に「何をするかわからないモンスター」として描かれていて、しばしばちゃぶ台もひっくり返すのだそうだ。


 「芸術か猥褻か議論するのが面倒だから日本人は陰毛が見えるか見えないかだけで猥褻性を判断しはじめた」というきのうの小西克哉さんのオープニングトークではないが、子供に手をあげたら意図はともかく即DV、という安直な判断がまかり通っているような気もする。しかし一方で「無抵抗な者を殴るのが楽しい」というどうしようもな輩も存在するので「全面的に体罰OK」というわけにもいかない。その線引きは、親でも教師でもいいが何かの事情で子供や教え子を殴った時に、感じたのが痛みだったか快感だったかで分けられるのではないか。他人を教育するというのは、自分に責任が返ってくるものなのである。


 もちろん、昭和版の星一徹が飛雄馬を殴るシーンには痛みがあった。その部分を強調してエクスキューズしなければならないような時代ではなかったから、自覚的に描かれてはいなかったが。


 ところで「怒るとちゃぶ台をひっくり返す」キャラといえば業田義家さんの傑作『自虐の詩』のイサオさんだが、実写版の映画が堤幸彦監督、中谷美紀阿部寛主演で今秋公開である。予告編はこちら。ちゃぶ台ひっくり返りまくり。
http://www.apple.com/jp/quicktime/trailers/shochiku/jigyaku/

*1:たぶん「星一徹のちゃぶ台ひっくり返し」の誤解を解いたのは堀井さんだと思う

ぐっときた言葉

 「すべてをポジティブに考える必要はあるのだが、それは無理な話である。だから人間はできる限り客観的になる必要があるのだ。楽観主義や悲観主義、どんな方向であれ、一つの陶酔感が支配したときは危険なものなのだ」
イビチャ・オシム『日本人よ!』p.87)

 太平洋戦争の話ではない。去年のドイツW杯で、日本を支配した「オーストラリアには勝てるだろう」という見通しについて語った部分だ。客観的な立場の人が語る日本人論は示唆に富む。オシム監督の名前"Ivica"は「イビチャ」ではなく「イビツァ」と発音するそうだが、表記は一向に改まる気配がないですね。

日本人よ!

日本人よ!

 

ラジオをなめんなよ!


 番組が終わった後、どこからか紹介を受けたらしい事務所の人がスタジオに訪ねてきた。政治系の仕事をしているコメンテーターの売り込み、ということだそうで、いわく「こちらのラジオ番組は聴いたことがありませんが」「今度本も書きますのでラジオにも露出させていただいてプロモーションを」「テレビでのプロモーションは最後の最後だと思っています」などと延々と話しはじめた。


 何となくかみ合わない感じでしばらく聞いていたのだが、要約すると「テレビでコメントするのはまだまだ敷居が高いけどラジオだったら手軽にできそう」だから「プロモーションのおまけで時事問題についてコメントしてやってもいいよ」ということらしい。その人にとってラジオはプロモーションの道具であり、大きなメディアに出るまでの通過点に過ぎないのだった。「ウチは間に合ってます」という意味のことを丁寧に言ってお引き取りいただいたが、なめんなよ。ま、なめられるようなラジオ番組もあまたあるのだが。


 きょうの小西克哉さんのオープニングトークは、「放送における政治的公平の形骸化を、陰毛解禁問題にからめて論じる」という秀逸な内容だったのでポッドキャストにもアップしてみました。最近、要望が多いのでそのうち定例化するかもしれません。ぜひご一聴のほど。
http://tbs954.cocolog-nifty.com/st/2007/09/921_0343.html

僕らのサイフから金を抜く奴らの手口とは

 きょうの某夕刊には保守論壇の論客の皆さんが、安倍総理の功績について「戦後レジームからの脱却をうたったのは正しかった」「今後の日本にとってのレールを敷いた」と評価するコメントを寄せている。その価値がわからない国民はバカだ、と言わんばかりなんだけど、安倍政権が崩壊したのはそういう理由じゃない。役人も政治家も、国民の金をちょろまかして懐に入れていることがわかったからNoを突きつけたのだ。「ちょろまかし」では表現がやさしすぎるだろう。税金泥棒だ。


 税金泥棒の構造は目を離すと温存されてしまう。だからこういうスクープは貴重である。読売新聞きょうの朝刊一面より。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070918-00000001-yom-soci&kz=soci


 要するに公益法人改革で解散したはずの「天下り先」が民間企業として存続していたという話で、旧郵政省の「かんぽの宿」は厚労省グリーンピアと同じだということだ。預けた郵便貯金はちゃんと残っているのかね。こっちは通帳があるだけ年金よりマシであるが。


 税金泥棒の手口は数限りなくあるようで、僕の愛読紙「東京新聞」の特報面右肩の“ニュースの追跡”では、きのう故松岡利勝農水大臣の資金管理団体が別名の政治団体として存続し、2億5000万円を超える繰越金もろとも消えてなくなろうとしている、と報じた。


 故松岡氏の親族が繰越金を相続すれば、当然のことながら贈与税相続税が課税される。一方、政治団体が引き継ぐ形にすれば税金はかからない。
 政治団体は2年間「収支報告書」を提出しないと解散になるが、政治資金規正法では解散した政治団体の資金処理方法を定めていない。つまり政治団体が金を集めるだけ集めて解散すれば、集めた金は使い放題にできるという話なのだ。「法の抜け穴」とはまさにこのことで、政治を目的に金を集めて税法上の優遇措置を受けたのなら、政治に使わないことがハッキリした段階で国庫に納付するのがスジである。


 「週刊現代」は今週号で、安倍総理が父親の晋太郎氏の遺産を政治団体を通じて引き継いだという“脱税疑惑”をスクープしたが、「政治資金」は不正行為の温床であり続けいっこうに改まる気配がない。僕らのサイフから勝手に金を抜き取る連中は泥棒として摘発しなければならないし、こうした談合・横領体質こそが克服されるべき「戦後レジーム」なのである。


 ところで「安倍総理はそれでも正しかった」と言い張る保守論壇の皆さんはみっともないが、だからと言って「ほ〜ら、見たことか〜」と大ハシャギする某新聞社のコラムニストもそれはそれであさましい。冷静にやろうよ冷静に。まるでスキップを踏むようなそのコラムは、きょう発売の某新聞社系週刊誌で読める。

「安倍総理“辞任表明”」でネタ大幅差し替え

 第一報が飛び込んできたのはOA直前の0時54分。あまりの唐突さに一瞬、誤報の可能性すら疑ったが、ほどなくテレビ各局が速報を打ち始めた。


 予定していた小西さんのオープニングトークを差し替えることにし、「繰り返しでもいいからスタジオとキャッチボールして下さい」とニュースデスクの内山さんに依頼。サッカーを取り上げる予定だった「ニュースさかさめがね」も国会から武田記者にリポートしてもらうことにした。OAが始まった頃、「午後2時から安倍総理が辞任記者会見を行う」という情報が入り、編成部はその時間にあわせて30分間、全国向けの報道特別番組を放送することを決定。「コラムの花道」きょうのゲストは勝谷誠彦さんなのでそのまま特番に出て貰うことにする。


 きょうは役者が揃っていて準備がしやすい。会見を聞いて武田記者リポート→勝谷さんの解説、という段取りだけ決めて、僕は「さかさめがね」「報道特番」のフリと簡単なQ&Aを作成。チーフDは編成部とCMや通常番組復帰タイミングの調整。若いスタッフには通信社からの記事を集めてもらう。万が一特番のエンディングで時間が余ってしまった時に備えてBGMも準備する*1。1時40分頃勝谷さんが到着。「この唐突さは何か個人的なことじゃないか?」と言って「立ち読みストリーム」用に買っている明日発売の「週刊文春」しばしチェック。「コレだ」と言って勝谷さんが喋った解説はここで聴けます。

 http://tbs954.cocolog-nifty.com/st/2007/09/912_e0fa.html


 「週刊文春」の記事は「安倍総理が複数の新宗教関係者や占い師から政権運営に関するアドバイスを受けていた」というもので、法律違反ではないから国民からの説明要求は突っぱねることはできても連立相手の公明党には対応せざるをえない。公明党が連立を解消すると政権運営どころでない、というのが勝谷さんの読み解きだ。
 安倍総理の記者会見では「なぜこのタイミングで」という問いに説得力のある答えはなかったから、その解読としてはウチの特番が群を抜いて面白い。面白くしてどうする(笑)。
 なお、週刊誌ネタでは、「週刊現代」が安倍総理の脱税疑惑を追っているとのこと。こっちは読んでいないが事実なら法律違反だ。

 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070912-00000935-san-soci


 「週刊文春」は明日、「週刊現代」は15日発売。どちらも必読。週刊文春安倍総理の次の記事も面白いです。

*1:無音の空白が10秒くらい生じると警報がなり放送事故になる。ゲストが勝谷さんだからよもや空白が空くことはないとは思ったが。

廃止ローカル線の記憶


 放送批評懇談会主催の「ギャラクシー賞受賞作品を聴いて語り合う会」に出席した。「ストリーム」が優秀賞を戴いたので、ゲストスピーカーとして喋る側である。ゲストは僕の他に2人。神田神保町・岩波アネックスのセミナー室は関係者や学生さんなど50〜60人が集まっていた。2時間半の番組を35分に編集したものを聴いていただき、40分くらい番組の説明をした。


 ラジオドラマはふだんほとんど聴くことがないが、会場でじっくり聴いた東北放送『プラットホーム』に思わず涙腺が緩み、こらえるのに一苦労。ひとりで聴いていたら確実に決壊していたに違いない。
 廃線直前の「くりはら田園鉄道(通称・くりでん)」を舞台にしたファンタジーで、冒頭、くりでんが線路を走る音にブルース調のギターが乗ってきたところから背筋に電気が走ってもうイケナイのだった。音を聴きながら目に浮かぶのは父親の故郷を走っていた「富内線」の風景だ。


 富内線はクロム鉱や石炭を運ぶために大正年間に開発された路線で、海沿いを走る日高本線鵡川駅から分岐して山の方へ向かう。1両編成でディーゼル、鉱山閉鎖にともなって不採算路線となって廃止というディテールまで「くりでん」と同じで、僕の中ではラジオドラマ『プラットホーム』は富内線の物語になったのだった。


 「ファンタジーで泣ける」のは、自分の記憶の中から何かを発掘してシーンと結びつけ、リアリティを補強するからだ。年齢を重ね、記憶と経験の量が増えれば増えるほどきっと「泣くツボ」も増えていく。そっちの方が圧倒的に人生は豊かなのであって、年をとって涙腺が緩くなることはむしろ誇らしいことなのだ。


 『プラットホーム』ディレクターの鈴木俊樹さんは、東北放送エリア以外の人にも聴けるような方法を考えている模様。ぜひ実現するといいなと思います。心の中に「廃止ローカル線」が走っている人は落涙確実です。


TBCラジオドラマスペシャル『プラットホーム』
http://www.tbc-sendai.co.jp/02radio/drama2007/index.html

富内線
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AF%8C%E5%86%85%E7%B7%9A
http://www.nihonkai.com/railroad/tomiuchi/tomiuchi.html
  

Billboard Live Tokyo に行ってきた


 六本木の東京ミッドタウンに出来たライブハウス「ビルボード・ライブ・トーキョー」(Billboard Live Tokyo)。
 こけら落としSteely Danとあっては、行かねばなるまい。
 ところが、チケットの発売日を見過ごしていて、ようやく確保したのが「5J」という席。ウェブサイトの座席表を見ると最後尾中の最後尾、しかし値段は1万9000円というBlue Noteを上回るスペシャルプライスである。
http://www.billboard-live.com/club/t_index.html


 どんなことになってるのか期待半分、恐る恐る東京ミッドタウンに出かけてみると、Billboard Liveのある4階に行くエスカレーターがないではないか!
 3階で警備員さんに訊くと、重そうな防火扉を開けて4階へ通してくれた。なるほど、ミッドタウンとの通路を閉めちゃうわけだ。「夜9時までにおいで下さい」というのはそういう意味だったのね(ライブは9時半スタート)。


 中に入り、ワンドリンク券をコロナビールに交換して5Jに行くと、ステージを上45度から見下ろすポジション。ただし直線距離だと30mくらいだからミュージシャンの手元や表情は肉眼でよ〜く見える。ライブは9時半ちょうどに始まった。セットリストは下記の通り。

Steely Dan; 2007.08.22 Billboard Live, Tokyo

(2nd Stage)

00. Intro

01. Time Out Of Mind(Gaucho)
02. Bad Sneakers(Katy Lied)
03. Hey Nineteen(Gaucho)
04. Daddy Don't Live In That New York City No More(Katy Lied)
05. Green Earrings(The Royal Scam)
06. Dirty Work(Can't Buy a Thrill)
07. Do It Again(Can't Buy a Thrill)
08. Chain Lightning(Katy Lied)
09. Josie(Aja)

(ENCORE)
10. Peg(Aja)
11. Pretzel Logic(Pretzel Logic)

12. Outro

カッコ内は収録アルバム名。
セットリスト収集サイトによると、
1stと2nd、また日によっても曲目を変えている模様。
http://otd10.jbbs.livedoor.jp/1010057/bbs_plain?base=1222&range=1


 終了は10時45分。ライブというよりジャズクラブでのリラックスしたギグ、という感じ。
 1972年の"Can't Buy a Thrill"から1980年"Gaucho"までの、学生時代に繰り返し聴きこんだアルバムからの演奏で、各ミュージシャンのソロも素晴らしく、僕はもちろん満足であった。


 Billboard Live Tokyo 使用上の注意。5階席最後尾のスツールはよじ登るのに苦労するほど高い。よじ登る時にテーブルに手をかけるとグラス等を倒す恐れがある。また、急角度でステージを見下ろすので高所恐怖症がひどい人はやめておいた方がいい。それから、座席表青のDUOシートは仲の良いカップルで行くならいいけど「体が触れあうことを意図したサイズの2人掛け」のようなのでそういう趣味のない男同士の場合は選択しない方がベター。苦言もひとつ。ライブ終了後、5分もしないうちに営業終了のアナウンスが流れ始めた。「リラックスした雰囲気で食事とお酒とともに極上の音楽を楽しむ」というコンセプトのはずなのに、慌ただしすぎである。ステージ前の席では食事中の客もいた。ライブ後の余韻を楽しみたくて、わざわざ2ndステージを選んだ人もいたのではないか。
 アーティストによってはチケットも高額なので、ホントに見たいライブを選んで行くのがオススメです。